わたしたちの脳の仕組み
母語と外国語では処理される脳の領域が違うという話を前回しました。
母語の知識は意識せずに使える手続き記憶で、外国語の知識は意識して取り出す必要がある意味記憶に属します。
手続き記憶も意味記憶も長期記憶ですが、脳での処理や神経回路が異なっているので記憶を取り出す際の手間が違います。
今回はその違いを生む神経回路の経由地点についてです。
海馬と大脳基底核の役割
外国語(意味記憶)も母語(手続き記憶)も神経回路を経て、大脳基底核の別の領域に保存されていますが、経由地点が異なります。
外国語は海馬、母語は大脳基底核です。
授業や教科書で文法中心に学ぶ外国語は海馬を経由。
海馬は脳が取り入れた情報を処理する場所で、短期記憶などの保有時間が短い情報も海馬を経由することで意味記憶などの長期記憶へと変化します。
母語を含む手続き記憶の経由地点は大脳基底核。
この大脳基底核は知識の自動化に関係する部位で、これが母語と外国語を隔てる部位でもあります。
海馬になんらかの不具合がある場合、新しい情報を脳に取り込む作業に支障がでることがあります。
新しい情報を長期記憶へと選定する作業を担っているのが海馬ですから、外国語に限らず新しいことが覚えにくくなります。
大脳基底核に不具合がある場合、母語に支障がでることがあります。
その経由が上手く行かないと手続き記憶である母語にアクセスしにくくなるからです。
母語と神経回路が違う外国語。上達させる方法は?
短期記憶を長期記憶へと変化させる手段の1つも繰り返し使うことでした。
(詳しくは下『言語学習に必要な記憶力』にあります)
そして、記憶を自動化させる手段も同じなのです。
シンプルすぎて少しがっかりするかもしれませんが、外国語を定着させるにも、繰り返し使うことが鍵になります。
たくさんの情報を詰め込み処理している脳には、シンプルなことが一番であるという。
ここでジェスチャーの例えです。
日本を含む多くの文化圏では『はい』で縦に振り、『いいえ』で横に振ります。
その文化圏で育ったなら、知らないうちに使っている。そんなジェスチャーです。
ブルガリアではまったく逆で、『はい』で横に振り、『いいえ』で縦に振ります。
このジェスチャーを私たちはいきなり使うことができるでしょうか。
きっと繰り返して繰り返して、やっと意識せずに使えるようになると思います。
意味記憶として頭にあっても、手続き記憶として使うには、繰り返して慣れることが必要だからです。
このことからも、単純な『繰り返す』という動作が私たちの脳をいかに刺激して自動化へと導いてくれるのかがわかります。
そして、単純な動作だからこそ注意することもあります。
繰り返すときには化石化に注意
化石化とは言語転移や誤った知識が修正されることなく長期間経った結果、後に修正が難しくなる現象です。
(言語転移:母語や優勢な言語の規則をそのまま外国語に当てはめ使うこと)
間違った知識も繰り返し使うことで定着し、手続き記憶として処理されてしまいます。
独学の学習者に多いのですが、化石化に気づかず繰り返し使って定着させてしまい、後の修正に多くの手間と時間を費やすケースです。
伝えたいこと
私たちの脳は賢くて、半信半疑でしている学習方法では心理的にストップがかかり、知らずに妨げていることがあります。
外国語と母語は脳レベルで違います。
脳が成熟した大人が言語を学ぶのも、幼い子供が母語を習得するのとは違います。
私たちが母語の習得にかかった年数を考えると、学習方法にも気を遣うのが得策だと考えます。
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